Sketching in Hardware 2
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2007.6.23-24にサンフランシスコで開催されたSketching in Hardware 2というミーティングに参加してきました。このミーティングはフィジカルコンピューティングにフォーカスした少人数のカンファレンスで、密度の濃い情報交換やコミュニティ作りを目的としたものです。今年のテーマは「Boundary Conditions」で、Tom Igoeを始めとしてこの分野に積極的に参加しているメンバーが参加しました。
Kimiko Ryokai: I/O Brush
この発表は、MIT Media Labで研究がスタートし、Ars Electronica Centerでも展示されていたI/O Brushについてでした。I/O Brushは、太めの絵筆のような形状のコントローラの先端にCCDカメラが内蔵されていて、実世界からテクスチャなどをキャプチャして、それを使ってスクリーンに対して絵を描くことができる、というものです。最初にCHIで発表されたプロジェクトからAECでの展示、さらにその後…と改良が繰り返されていて、その度に表現力が増しているのが素晴らしいと思いました。こうした「研究」では、論文としての価値=新規性が優先され、実用レベルまで改良されるものはなかなかないのですが、きっちりと実現されています。
Camille Moussette: HAPI or not? Challenges in building haptic interaction
この発表では、数種類のhapticなインタフェースを実現するまでのプロセスが紹介されました。プロトタイピングから始まり、ブラッシュアップを繰り返して最終的な完成系に至るまでの試行錯誤には、興味深いトピックがいくつかありました。
「入力と出力の取り扱いの難易度を比較した場合、出力が難しい」という意見には同感です。一般的なセンサであれば、使用方法だけわかっていればそれなりに簡単に利用できますが、アクチュエータはプロトタイプといえでもそれなりの機構が必要になる点が難易度の高さにつながっていると思います。また、水をかき混ぜることでインタラクションが発生するWater interfaceでは、「適当なツールキットがなく、苦労した」という話題に関して「何か新しいものを作る時にはそれを想定したツールキットがあることは期待できないから、なんとか実現したらそれをツールキットとして公開するというのは?」というディスカッションがありました。これは、「ツールキットとは何か?」を考える上で重要な点だと感じました。
確かに、全てを想定してあらかじめ用意しておくことは不可能ですので、全く新しいコントロール方法が必要になった場合を想定するのは難しいですが、そうでない場合には、何らかの形で拡張性を残しておくというのが最善の策なのかなと思います。また、新しい実現方法を見つけた場合、それをどうやって共有するのかというのも課題ですが、Instructablesのような仕組みを使うのもいい気がします。
Stefan Marti
主にMIT Media Labにいたときの研究に関する紹介でした。ここでもプロトタイピングから最終系に至るまでの過程が紹介されましたが、こちらは制作物が小さいものが多く、初期のプロトタイプはかなり複雑な空中配線で構成されていたのが印象的でした。専用に基板を設計したものもあれば、ユニバーサル基板を使ったものもありました。
この例に限らず、Media Labの学生は限られた期間にアクティブに活動する必要性に迫られていることから、早い段階でお互いの得意な領域を把握して、うまく協力し合って研究を進めていくというスタイルが多いようです。
バックグラウンドが異なるメンバーが同じ場所で作業を進めていく場合、うまく共通言語が見つけられないと衝突ばかりになってしまいますが、こうした共同作業はとても重要なことだと思います。
Shigeru Kobayashi: Gainer/Funnel
今回は、Funnelを中心に、その前段階のプロジェクトであるGainerについても紹介しました。Gainerに関しては、現在ICCで展示中のゲイナーカイダンと、先日のNIME'07で発表されたMountain Guitarについて紹介しました。ゲイナーカイダンは、やはりあの数のブレッドボードとジャンプワイヤを使っているというところが受けました。Mountain Guitarに関しては、発表した時の反応はそれほどなかったように感じていましたが、発表後にいくつか質問を受けました。こうした楽器系ものは玩具メーカーでも楽器メーカーでも製品化しにくい事情があり、「実際に販売しているのか?」などの質問が一番多かったのが印象的でした。
Funnelに関しては、独自のI/Oモジュールだけでなく、既に世界的に普及しているArduinoも含めてサポートするという点などを中心に反応がありました。現状ではI/Oモジュールごとにばらばらの実装になっていて互換性がないことから、unifiedな仕様を検討できないかという提案が発表後にTom Igoeさんなどからありました。既にMake Controller Kitではある程度整ったOSCコマンド体系を実装しているため、これをベースにするというのはどうだろう、など、いろいろなフィードバックをいただきました。この互換性問題に関しては、自分でも常々不便だと感じていましたので、積極的な提案をしていきたいと考えています。
Lars-Erik Holmquist: Cargo cult design: on the boundaries between sketches, prototypes, mock-ups and other representations
ここでは、ある映画(正確なタイトルをメモするのを忘れてしまいました)をメタファーとして、プロトタイプの段階で自分たちが作ろうとしているものが本当に必要なもので、本当に問題を解決しているのか?という問いかけがなされました。
プロトタイプは機能を、モックアップは形を実際に見えるようにするものですが、いずれも実際のものではありません。デザイン系の学校の卒業制作展や、企業の新製品デモでは、あたかも潜在的な問題を解決したかのように振る舞うことがよくあります。
こうした問題に対して提案されたのは、grounded innovationという考え方です。これは、技術と潜在的ユーザをイノベーションをドライブするリソースそしてとらえ、革新的(inventive)でしっかりした(grounded)ということを、お互いを衝突させてしまうことなく実現する、というのが狙いです。
限界に近い実践(marginal pratice)から基礎(grounding)を得て、それを新しい技術に転換する、という考え方は、結局の所バランス感覚が重要である、ということになるのかなと思います。
Haiyan Zhang: Playing with Constraints - The value of interactive prototypes
IDII(Interaction Design Institute in Ivrea)出身で現在IDEOでインタラクションデザイナーとして働いているHaiyanは、実際にIDEOで行われているワークショップなどについて紹介しました。ワークショップでは、簡単なセンサを入力に、ArduinoをI/Oモジュールとして使って実際に遊べるゲームを4時間で作ってみる、というようなものを実践しているそうです。
インタラクティブなプロトタイプによって技術の制約(constraints)を扱うことができるようになり、これらの制約を通して新しいデザインの機会を見つける。ただし、技術だけが制約の次元ではない(例:物理的な形状、アフォーダンス、物語)、というメッセージはクリアだと感じました。
Ryan Aippersbach: Boundaries in interdisciplinary sketching
BiD(The Berkley Institute of Design)のRyanの発表は、Data Souvenirsなどのプロジェクトに関するものでした。家庭でのノートPCの利用に関する調査結果として、家庭でユビキタスな技術を活用する機会がないこと(Google検索、素早くメールをチェックする)、境界(仕事/家庭、オンライン/オフライン)を維持することが難しいことなどがあげられる。これに対して、Data Souvenirは本のようなデバイスで、家庭におけるreflectionをサポートするものです。
この紹介の他、どうすればcollaborative sketchingをサポートできるか?ツールキットの部品を標準化&小型化して日常のオブジェクトに組み込むことができるようになるか?というトピックの提案もありました。
Nathan Seidle: Economic Boundary Conditions : What makes a kit/tool feasible and successful?
数多くのキットなどを販売しているSpark Fun ElectronicsのNathan Seidleの発表は、発表5分、後はディスカッションというシンプルなものでした。各自の持ち時間が20分といっても、学会などでよくある発表15分+質疑応答5分、とかではなくてその中の使い方が自由になっているのがSketchingの特徴です。
Spark Funは2003年にスタートし、現在は28人の従業員がいるそうです。プロトタイピングに有用な部品やキット(ArduinoやWiringを含む)を扱って注目を集めている会社ですが、シンプルな基本方針に基づけばちゃんとビジネスとして成立する、ということを強調してしました。「非売品であれば販売できない」「アイデアがシンプルであればあるほどベター」「ただやるだけ」など、何かとリスクが大きいと考えられているハードウェアビジネスに対するシンプルでポジティブな取り組みはとても興味深いと感じました。
San Francisco activity
全体を5つのグループに分け、それぞれサンフランシスコ市内のスポットを見に行きました。「小さなグループに分かれてそれぞれの親睦を深める」というのが説明だったのですが、実際には次の日のワークショップの伏線になっていました。自分たちのグループはフィッシャーマンズワルフにある「Mussé Mecanique(機械博物館)」に行き、コインを投入すると動く様々な機械で楽しみました。
Ed Bennett: ArtBus - a protocol for distributed interfaces
かつてEZIOなどのプロジェクトを行っていたEdの最近のプロジェクトは、ArtBusというツールキットの標準化に関するものでした。現時点では、様々なツールキットが提案されていますが、インスタレーションなどのためにそれらを組合わせて使おうとすると、互換性がないことから、共通化のためのプロトコルを提案しよう、というものです。
プロトコルは、OSCとシリアル通信の2種類に関するもので、それぞれのデバイスにアドレスとグループをアサインし、マスターになったデバイス(多くの場合にはPCに接続されたUSB-to-UARTブリッジ)が対話的なコマンドを介してデータをやり取りする、というものです。
プロトコルの標準化はそろそろ必要だと誰もが感じているところで、特にArduinoの様になんとでもプロトコルを決められる場合には、プロトコルごとに異なる処理が必要になります。ArtBusで提案されているプロトコルがベストなのかというとそうではない部分(例:複数ポートに対して同時にクエリーを発行できない)もありますが、今後標準化していくためのベースとしては十分に検討する価値があると感じました。
Tom Igoe: Networked objects
Physical Computingの提唱者であるTom Igoeのセッションは、ネットワークにつながるデバイスを実現するためのさまざまな手法についてのサーベイでした。かなり多くのトピックを含むないようでしたが、以下はその一部です。
- PCの代わりに携帯電話をネットワークに接続するためのハブとして利用する方法もある
- Ethernetモジュールをマイコンに接続して、インターネット経由で他のPCやサーバと接続する方法もある
- デバイスどうして対話させるために必要なのはプロトコルのためのライブラリ、モデム(Ethernet、Bluetooth、ZigBee、GPRS)、既存の接続モデルを利用し、コンピュータサイエンスに精通していない人でもわかるように単純化する、ガラス箱の隠蔽化、よいプロキシツール(シリアルプロキシ〜Max/MSP)。
この他、現在開発が進められているArduino Library for Processingなどの紹介もありました。
Tod Kurt: Smart Interface Components
Mikeと共に今回のSketching in HardwareをホストしたTodは、Thing Mという会社でプロトタイピング用のデバイスを提案しています。今回紹介されたSmart LEDは、フルカラーLEDに小規模なマイコンを追加し、具体的な値(RGBまたはHSB)でコントロールできるようにした、というものです。こうしたデバイスで問題になるのは価格ですが、1000個作った場合で約2$程度ということでした。普通のLEDの代わりに使うにはこれでは高いという話になってしまうかもしれませんが、プロトタイピング用であれば十分に魅力的な価格だと思います。
David Zicarelli: Spooky Machines and Other Lies
Max/MSPの開発者であるDavidは、現在開発中のMaxに搭載される予定の新機能をデモしました。Maxでは、随分以前から「Hide in Lock」というコマンドで編集が終了してロックした時に表示させたくないオブジェクトやワイヤを隠す、という機能があります。しかし、これは単に隠すだけですので、それぞれの位置や大きさなどはそのままです。このため、複雑なパッチの中にUIが混在する場合、プレイ中の操作性と編集時の利便性を両立させるのがかなり困難でした。
これに対して、現在開発中の機能を使うと、独立したビューで自由にUIコンポーネントを配置することができるようになります。これは確かに便利そうな機能でした。この紹介の後の、「ベストなスケッチ用ツールは、そのツールを用いて実現しつつあるアイデアを、まるで自分が既に持っていたかのように信じさせることができる」という説明は印象的でした。
Camille Utterback: Prototype to finished product
来日したこともあるアーティストで、Text Rainなどの作品で知られるCamilleは、DVDで主な作品のプロトタイプから最終形までを紹介しました。他の発表にも共通していることですが、表に見える部分はすっきりとまとまっているものの、プロトタイプやバックヤードはかなりごちゃごちゃで、誰も同じようなものだというのを実感しました。
David Vondle & Nick Zambetti: Bridging client workand open
IDEOの若手デザイナー二人によるプレゼンは、オープンソースのツールキット(例:Arduino)をIDEOの様な会社が活用していく場合に、どのようにしてコミュニティにフィードバックすればよいのか、という話題でした。
ちょうど、Arduinoなどを使って勉強した学生がデザイナーとして働き始めるタイミングということで、興味深い話題だと感じました。問題点として予想されるのは、守秘義務であったり、かなり忙しい中でどうやってきちんとしたフィードバックをしていくのか、といったことです。
オープンソースは、ソフトウェアの世界では定着して一定の成果を出しているのですが、それ以外の世界ではまだまだというのが現状だと思います(例:Creative Commons)。短時間で結論が出るような話題ではないのですが、今回発表したのはArduinoプロジェクトにも参加しているメンバーですので、今後の動きに注目するとともに、積極的に情報交換を続けていきたいと思います。
Sketching in hardware
今回のミーティングと同じ名前のこのセッションでは、90分間という非常に限られた時間でグループワークを行いました。グループは前日と同じメンバーで、それぞれのグループで見学に行った施設で見かけた「boundaries」をピックアップし、それを元にプロトタイプを作成して発表する、というものでした。同じグループになったメンバーは以下の5人と私で合計6名でした。
Nick Zambetti(IDEO)
Camille Utterback(アーティスト)
Ryan Aippersbach(Berkley)
Lars-Erik Holmquist(Mobile Life Center)
ピックアップしたboundariesは、「ガラスの箱の中の見せ物と外」「箱の中身とスコープの外」というものでした。さまざまなジャンクを元にディスカッションを始めましたが、ビデオカメラで撮影したものをビューファインダーで除き見ることで、「直接見えない箱の中身を白黒のファインダーで見る」ことでboundariesが意識できるのではない、ということで方針が決まりました。その後は、中で何を見せるかということで、モータ内蔵おもちゃを試してみることになったものの、限られた時間の中でどうやって実現するかでかなり試行錯誤を行いました。お互いが思いついたアイデアを次々と試しながら失敗したものを捨て、新しいものを試し…というプロセスは緊張感のある楽しいものでした。
結果としてできたのは、モータ内蔵のおもちゃを分解してゆらゆらと回転するようにしたものを箱の中に入れ、自動点滅するLEDで照らしたものをビデオカメラで撮影する、というものでした。「コインを入れるような操作でスイッチを入れる」という機構は時間切れで間に合わなかったものの、結構いい感じののぞき箱ができ、最後のプレゼンテーションの時も好評でした。
最後に
全体を通した感想として、少人数で全員が発表するという形式はとてもいいと感じました。学会でもワークショップではこうした形式がとられることがありますが、2日間、朝から深夜まで一緒に過ごすことでいろいろな話ができます。同じような領域に興味を持つ人々を集め、コミュニティを形成するような機会にしよう、という目的には十分に達せられているのではないかと感じました。次回第3回も開催される予定だということですので、ぜひ参加してみたいと思いました。
個人的な反省としては、ヒアリング能力不足を痛感しました。フリーな形式の発表が多かったため、学会のようにきちんとスライドを用意せずにどんどん早口でしゃべる人も多かったですし、狭い会場でしたので休憩時間中も常にカクテルパーティー効果という感じでした。これに関しては急にどうにかできるというものではありませんので、これを機会に継続してトレーニングしていこうと思いました。
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